土地家屋調査士の仕事内容と年収は?
土地家屋調査士は、土地や建築物といった不動産の登記の専門家です。なかなか普段かかわることはありませんが、不動産関連の事案が出てきたときに、とても頼れる市民の味方といえるでしょう。不動産業界はとても広く、さまざまな職業が含まれますが、なかなかこの仕事に目をつける人はいないかもしれません。そこで、仕事内容と平均年収についてお話しします。
土地家屋調査士の仕事内容
土地家屋調査士は、不動産登記の申請において、とても頼りになる仕事を請け負っています。不動産というのは土地や建物などのことを指しますが、これは大きな財産であり、法的に守られるべきものだということは皆さんご存じのことでしょう。法人や自治体が所有している場合もありますが、個人が所有できる財産の中でも非常に大きな部類に入ります。土地家屋調査士はこの大切な財産をきちんと調べ、所有者の権利を正当に守るために働いています。
その業務は、不動産のディティールを明確にすることがスタートです。まず該当する土地や建物などの不動産のある場所を明確にし、それがどのような形をしていてどれくらいの広さがあるのか、いったい何に使われているのかを調査します。どんな存在なのかよくわかっていない不動産は身近にも存在していて、どこからどこまでが誰の所有なのかも明確ではない土地なども実は少なくありません。
そのため調べるにあたっては測量なども行い、正確な図面を起こし、法的に正しい書類をまとめ、法務局に登記申請できる状態にすることがメイン業務です。必要とされるのは当該の不動産が売買されたり譲渡されたりする場合が多いですが、なんといっても大切な財産ですから取引は安全で円滑に進められるようにしなければなりません。不動産取引が正しく行われるために定められたのが不動産登記制度ですが、この制度に則って業務を行うのが土地家屋調査士といえます。
「登記」という行為自体、普段生活しているとあまり馴染みのあるものではありませんが、不動産登記制度を運用するには欠かせないものです。たとえばその不動産が誰のもので、どこからどこまででどのような用途で使われているのかは誰もが平等に知る権利がありますが、その情報が掲載されたものがなければはじまりません。
その誰もが自由に見られる資料が「登記簿」で、そこには不動産に関する情報がすべて掲載されています。登記簿が自由に閲覧できること自体、知らない人も少なくありませんが、この共通の資料には「表示に関する登記」と「権利に関する登記」という2つの情報があります。表示に関する登記は、不動産の場所や面積、用途がわかる情報で、権利に関する登記のほうは誰がどのような権利をもっているかがわかる情報です。
土地家屋調査士は前者の「表示に関する登記」に関係する職種で、測量や書類の取りまとめ業務から届出まで、請け負うことが許されています。たとえば相続で不動産の所有者が変わるだけでなく、ひとつの所有だったものを親族で分割するような変更もあります。新しく土地を買い、住宅を建てたり店舗を建てたりする場合もあります。そんなときに表題登記を変更したり新規作成したりするため、測量や書類作成を請け負い、所有者の代理となって申請手続を行える権限を持つのが土地家屋調査士です。
つまり依頼すれば不動産のディディールをすべて明確にして、法的に正当な状態に整えてくれるプロフェッショナルといえます。もちろんこうした作業は所有者本人が自力でできることではあります。ただ、測量や図面作成などは専門家でなければ無理ですし、古い土地の場合には境界線があいまいで、隣家ともめて裁判になってしまうトラブルもあり得ます。こうしたことを避けつつ、自分の権利をきちんと明確にしたい場合、とても頼りになる士業といえるでしょう。
土地家屋調査士は国家資格に合格する必要がある
不動産の所有者の権利を守る正義の味方ともいえる職種ですが、土地家屋調査士は難しい国家資格に合格する必要があります。2日にわたる法務省の筆記試験と口述試験に合格し、晴れて各都道府県内の組織へ入会して名簿に名を連ねることで、この士業を名乗ることができるようになります。
厳しい試験ですが受験資格はなく、学歴も年齢も関係はありません。測量士や測量士補、一級建築士・二級建築士などの資格を持っている人は試験の一部免除などがありますが、基本的には誰でも挑戦できる開かれた試験です。筆記も口述も民法に関する知識や登記申請、審査請求手続に関する専門知識が問われます。合否は上位約400名のみという相対評価となっており、決められた合格点を取ればよいというわけではないことも難しくしている理由です。
また、民法の知識だけでなく、平面測量や作図などの手を動かす作業が試験に盛り込まれている点もネックです。机の上で電卓と定規、筆記用具だけで正確な図面を引けなければ、合格することはできないでしょう。筆記試験は午前と午後とをとおして行われ、そこで合格した人だけが後日開催される口述試験の受験資格を得ることができます。
例年、最終合格率は9%台という低さで、この試験がいかに難しいかがわかる数値といえるでしょう。多くの人が落ちてしまう理由は、専門性の高さと試験時間の短さだといわれます。三角関数や複素数などの数学的知識をもとに、電卓と定規で正確に作図するのは、知識だけでなく訓練と馴れが必須です。線にズレがあってもダメ、未記入の箇所があってもダメ、しかも時間がとても短いとなると、なかなかクリアできないのも頷けます。
また民法の範囲が非常に広く、勉強がしにくいことも理由のひとつです。民法から出題されるようになったのが平成16年からなので、頼りになる過去問が少ないのもネックです。学習範囲がかなり広く、これまで学校などで法律の勉強をしてきた人ならよいのですが、あまり関連のない科目を修業した人は苦戦が強いられるでしょう。
民法の出題と作図とが同じ試験時間内なので、民法に時間を取られて作図がほとんど白紙状態だったという人も少なくありません。決して出題数は多くないのですが、時間配分がうまく行かないと難しい結果になるでしょう。門戸が開かれているとはいえ、国家資格ですから、しっかり勉強してコツコツ挑むしかありません。
土地家屋調査士の年収は400万円から500万円台が多い
気になる土地家屋調査士の年収ですが、おおむね年収400万円から500万円台となっています。ただ企業に勤める調査士の数値ですので、個人で独立し、個別にクライアントから依頼を受けている場合は1000万円から1500万円という情報もあります。依頼者あっての仕事ですので、どうしても収入の幅は大きくなりがちですが、誰しも経験と実績を積まないと成功はできませんので、まずは企業に入社し、現場で勉強するのが近道でしょう。
企業に就職する場合、多くは建設会社や不動産販売会社など不動産を扱う事業会社か、独立して個人が経営している事務所かという選択になります。とくに現場での測量は実践経験がものをいうため、できるだけたくさんの依頼ケースをこなすことがキャリアアップへの道といえます。
独立した人の将来は、開業するほか行政書士や司法書士などの士業の資格を取得するケースが挙げられます。やはり民法に深く関わる仕事ですので、こうした士業の資格を自分で取るか、有資格者をビジネスパートナーとして不動産関係の業務を拡大するのがセオリーです。社会的使命としては、依頼者の権利を守る、正当な登記制度を守るといったものです。
土地をめぐる裁判などは残念ながら起こりやすいトラブルですし、とくに境界線の問題は明治時代にまでさかのぼって争いが起こるケースもあるほどです。個人の重要な財産である以上避けにくいことですが、依頼者の権利を守り不利益にならないよう取り計らうのは、弁護士や司法書士などの士業と志を同じくするものでしょう。それだけにやりがいのある仕事ですし、人の生活がある限り、将来性もある職業だといえます。
土地家屋調査士は、不動産登記の表題登記のエキスパートです。依頼者の権利を守り、不利益を被らないよう代理人として働く頼れる存在といえます。物件を調査し、測量や図面作成などを行い、法的に正しく登記を行うのが仕事内容です。国家資格ですので決して簡単になれる職種ではありませんが、それだけに大きな社会的使命を果たせるやりがいある仕事です。年収は企業勤めと経営者とで3倍ほどの開きも見られますが、まずは就職して実務経験を積み、キャリアパスを描くのが近道でしょう。