建築士がAIと上手に付き合っていくにはどうすればいい?

公開日:2025/05/15  

建築士 AI

近年のAI技術の発達は目覚ましく、ニュースでもよくAIに関する最新技術が取り上げられるようになりました。しかし「AIによって人の手による仕事が奪われるのではないか」といった声もいまだに根強いです。それは建築設計の分野も例外ではありません。そこで今回は、建築士の将来性やAIとの上手な付き合い方を詳しく解説します。

建築士の将来性

建築士の将来性について、国土交通省の見解とともに新築や既存建物の改修における建築士の需要を詳しく解説します。

国交省の見解と建築士の役割の進化

令和2年、建築士資格の受験資格が緩和され、建築士の資格取得に向けた環境が大きく変わりました。とくに注目すべきは、実務経験を積む前から受験可能となった点や建築士登録に必要な実務業務の範囲が拡大されたことです。

これにより、建築士の業務は設計や工事監理のみにとどまらず、建築物全般に関わる多岐にわたる専門的な役割を担うことが期待されています。改正された内容には、たとえば、既存建築物の利活用検討や維持保全計画の策定、建築物に関する調査や評価、設計図・施工図の作成、建築物に関する研究などが含まれます。

これらの業務が実務経験としてカウントされることで、建築士の職域はますます広がります。

既存建築物の活用と高度化

建築士の活躍の場は、とくに既存建築物の活用や改修において顕著です。近年、都市部では既存建物の解体後に、新たにオフィスや商業施設、住宅を組み合わせた複合施設を建設するケースが増えています。このようなプロジェクトでは、複数のステークホルダーとの調整や方針決定が重要な役割を果たし、建築士がその中心的な役割を担っています。

また、建物の大規模化と多様化にともない、建築士は専門分野を超えた幅広い知識が求められるようになりました。デベロッパーやプロジェクトマネージャーとしてのキャリアを積むためにも、建築士としての需要はますます高まります。

また、建物の機能性の多様化も重要な要素です。働き方改革や環境問題への対応など、時代の変化に応じて、建物に求められる機能が変わっています。オフィスのリモートワーク対応やエネルギー効率の向上、耐震性能の強化に対応した新築や内装改修のプロジェクトは今後も増えます。

これにより、建築士の役割もさらに拡大し、多様なニーズに応える能力が求められます。

老朽化建物の保存と耐震改修

さらに、建築士には老朽化した建物の保存や耐震改修という重要な役割も期待されています。とくに旧耐震基準で設計された歴史的な建築物や住宅、施設は現在も多く残っています。

それらを保存しつつ、安全性を高めるための耐震改修が必要とされているのです。この分野では、補助金制度を活用した計画策定が求められるため、建築士には補助金制度の知識や申請手続きのスキルも必要です。

これにより、補助金を有効に活用した修繕や改修を行う建築士の需要は高まっています。

今後の展望と建築士のキャリアパス

将来的に、建築士の需要はますます高まると予測されます。都市部における建物の大規模開発や老朽化建物の改修、さらには新たな技術の導入が進む中で、建築士には専門的な知識や柔軟な対応能力が求められます。

また、建築士としてのキャリアパスも多様化しており、プロジェクトマネージャーやデベロッパー、さらには建築設計事務所の経営者としての道も開いています。建築士の資格を取得した後は、さらなる専門分野に特化したスキルを磨くことが、将来のキャリアにおいて重要となります。

AIと上手に付き合うにはどうすればいい?

近年、AI技術の進化は建築業界に大きな変革をもたらしています。特に、画像生成AIの登場により、建築パース作成ができることが話題となっています。その一方で「AIが建築士の仕事を奪うのではないか」との懸念も広がっています。

しかし、実際にはAIとの共存が進んでおり、建築業界はAIを使って建築士の役割をよりクリエイティブで価値のあるものにすることを目指しているのです。ここでは、建築業界が目指すAIとの付き合い方と、建築士に求められる新しい能力について詳しく見ていきます。

建築業界が目指すAIとの付き合い方

建築業界では、AIを仕事を奪う敵としてではなく、建築士がよりクリエイティブな仕事に集中できるようにサポートするツールとして活用することが目指されています。具体的には、AIが得意とする部分はAIに任せ、建築士が本来の設計や施工計画といったクリエイティブな部分により多くの時間を割けるようにするという考え方です。

たとえば、建築主からの依頼を受けた際に建物の理想像や必要条件をもとにキーワードを抽出し、そのキーワードを画像生成AIに伝えることで、建築パースを迅速に作成できます。このイメージパースを使って、建築主と方向性を合意することで、従来なら時間がかかっていたパース作成の工程を大幅に短縮できます。

これにより、建築士はパース作成にかかる時間を削減し、より多くの時間を設計やクリエイティブな要素に充てることが可能になるのです。このように、AIは建築士がクリエイティブで楽しい仕事に集中できる環境を提供し、効率化を図ることを目的としています。

AIはあくまでツールとして活用し、最終的な設計や意思決定は建築士の専門知識と経験にもとづくものです。これが、建築業界が目指すAIとの理想的な付き合い方です。

AI時代に求められる人間の建築士の能力

AI技術が進化する中で、これからの建築士にはどのような能力が求められるのでしょうか。大きく分けて二つの重要な能力が挙げられます。

まずひとつ目は、AIなどの新しい技術を活用して、設計のための時間を確保できる能力です。AIをうまく活用すれば、パース作成や構造計算など、単純作業の時間を短縮できます。

これにより、建築士はより多くの時間をデザインに費やし、質の高い建物を設計できます。時間の使い方を工夫することで、設計におけるクリエイティブな要素を最大化できます。

ふたつ目は、AIなどの新技術を活用して、これまでにない新しいアイデアを生み出す能力です。とくに、BIM(Building Information Modeling)やパラメトリックデザイン、生成AIの技術を用いれば、有機的で曲線的なデザイン、複雑な形状を含むデザインが容易に実現できるようになります。

これにより、現代の技術を駆使して、従来の設計手法では不可能だった新しいデザインを提案できる能力が求められています。AIによって設計が支援される一方で、建築士はその技術を活用し、時代のニーズに応じた新しいデザインを生み出す役割が求められます。

また、建築主の特徴や地域性を取り入れた設計力も依然として重要です。新技術を活用することで設計の自由度が増す一方で、建築士の専門知識やセンスが設計に大きく影響します。そのため、これらの能力は今後さらに重要性を増していきます。

実現している設計支援AI

すでにいくつかの企業では、AIを活用した設計支援ツールが実用化されています。たとえば、大林組はAiCorbというファサードデザイン支援AIを開発しました。AiCorbは設計者のスケッチをもとに、複数のファサードデザイン案を自動で提案し、それらのデザインを設計用プラットフォームにモデル化します。

このツールを使用することで、設計者はスケッチ段階からAIによるデザイン案の提案を受け、迅速に決定を行うことができます。従来であれば、設計者がデザイン案を手作業でスケッチやCADで表現していたものが、AIの力を借りることで効率的に進められるのです。

また、竹中工務店は構造設計AIシステムを開発しました。このAIシステムは、社内の類似物件の構造計画を自動で検索したり、部材検討をサポートしたりすることができます。これにより、構造設計にかかる時間や労力を大幅に削減し、その分クリエイティブな構造デザインに多くの時間を割けるようになりました。

こうした設計支援AIの導入により、建築士の負担は軽減され、設計の品質向上が期待されています。

まとめ

建築業界におけるAI技術の進化は、設計や施工計画の効率化を進め、建築士の役割をよりクリエイティブで価値のあるものに変革しています。AIは、建築士が時間を節約し、より多くの創造的な仕事に集中できる環境を提供します。たとえば、AIによる建築パース作成や構造設計の支援によって従来の手作業を大幅に削減し、デザインやアイディアの創出により多くの時間を割けるようになりました。これにより、建築士は新しい技術を活用し、時代のニーズに応じた革新的なデザインを提供することが求められます。AIとの共存が進む中、建築士の専門知識とセンスがさらに重要な役割を果たすことになります。

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