建築設計の仕事は海外でも稼げる?海外進出を狙う人は何をすべきか
建築設計は、これからつくる建物の資材、構造、工事費を計画し、図面に起こす仕事です。建築設計は日本に限らず、世界中で行われているため、海外で仕事をして、稼ぎたいと考えている方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、主にアメリカを例にして、建築試験制度や必要な資格、そして気になる年収について解説します。
国によって異なる建築試験制度
建築試験制度は、日本だけに存在する制度ではありません。名称や条件は異なりますが、アメリカをはじめ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、中国、韓国などさまざまな国に存在します。
もくじ
各国の建築試験制度
アメリカの建築試験制度の試験名は建築家登録試験(ARE)、試験は毎年行われています。受験資格は、既定の教育と実務を修了しないと得られません。教育(建築教育)では、認定を受けた約100校の大学において、5年または6年学び、学士または修士の資格が必要です。また、実務は州ごとに異なります。基本的には3年間の実務訓練が必要ですが、一部の州においては、2年というところもあるようです。
オーストラリアの試験名は建築実務試験、試験は小論文と面接で構成され、大学の学位(建築等が5年)と実務経験2年以上で受験資格を得られます。
イギリスは専門実務試験に合格すると、建築設計の仕事が可能です。試験内容は、記述と面接となっており「二種類の教育課程(合計で5年間)と実務経験2年以上」などを修了すれば、受験資格を得られます。
そしてドイツは試験ありと試験なしが存在し、試験ありの場合は、筆記と面接が試験科目です。
中国の試験は、多枝選択式及び製図を採用しています。受験資格は、大学等(5年)建築学士号取得と実務経験3年をはじめとした、5種類のうちのいずれかを満たしていれば大丈夫です。
最後の韓国は、建築士資格試験という名称で実施しています。試験内容は中国と同じで、多枝選択式および、製図となっており、建築士予備試験と7年の実務をはじめ、5つの条件のいずれかを満たさないといけません。
アメリカの資格名は建築家
日本の場合、建築設計を行う方を建築士と呼びます。一方、アメリカの建築士にあたる資格は建築家、この呼び方はオーストラリアやイギリス、そしてドイツ(一部の地域)と同じです。ちなみに中国では一級注冊建築師、韓国は日本と同じ建築士と呼ばれています。
アメリカの試験事情
アメリカで行われている建築家登録試験の受験者数は、毎年8,000~8,500人程度で推移しています。そのうち、合格するのは2,000人程度、合格するためには、全科目の合格が必須です。建築家登録試験を管轄しているNCARBによれば、すでに合格してNCARBに登録しているのは約10万人に上るようです。
海外で活躍するために必要な資格はある?
海外で活躍するためには、いくつか必要な資格があります。もちろん、海外で同じような資格を取得すればいい話かもしれませんが、何も持たずに海外に出るよりも、ある程度の知識や技術を持っていた方が、海外進出はしやすいでしょう。
また、災害の多い日本の建築技術は、どこの国でも通じる技術です。海外では、基本的な考え方が、まったく違うというケースも多いため、知識や技術を駆使した、柔軟な対応が稼げるかどうかを左右させます。そこで、アメリカで活躍するときに必要な資格をピックアップしてみました。
一級建築士
日本の国家資格のひとつで、国土交通省が管轄しています。建築士のなかでも最高位の資格であり、どのような建物でも設計できるという特徴を持っています。アメリカはもちろんのこと、海外で建築に携わるなら必ず取っておきたい資格です。
一級土木施工管理技士
一級土木施工管理技士は、国土交通省管轄の国家資格です。二級の上位資格にあたる一級土木施工管理技士は、大規模な現場でも責任者になれます。たとえば、大きな橋やトンネル工事、そしてダムといったスケールの大きい工事も可能です。また、各現場の計画、品質管理、安全管理、各種手続き、住民への説明なども一級土木施工管理技士の仕事となります。
一級建築施工管理技士
一級建築施工管理技士は、建築工事現場の主任技術者および、管理技術者になれる資格です。規模に限らず、どのような現場でも関われるため、建設業界のなかでも重要度の高い資格のひとつといえるでしょう。
英検
英検とは、実用英語技能検定のことです。英検が、建築設計に直接関わるわけではありません。しかし、話せるのは日本語のみという状態で、渡米しても意思疎通は難しいのではないでしょうか。とくに建築設計ともなれば、専門用語ばかりになるはずです。必須とはいいませんが、海外進出を狙う以上は、多少の語学力が必要になるでしょう。
その他の資格
上記以外にも、さまざまな資格がアメリカで役立ちます。たとえば、電気系や各種建設計の資格、そして認定コンストラクション・マネジャーなどです。認定コンストラクション・マネジャーとは、建築や設備のプロを表す言葉で、計画、設計、コスト、工程といった、さまざまな業務のマネジメントを行えます。このような資格は、マストではありませんが、成功するうえで必要な資格といえるでしょう。
海外で働いたらどれくらいの年収になる?
海外で建築設計の仕事に就くと、どれくらいの年収になるのでしょうか。もちろん、国や企業規模、そして地域によって年収は異なりますが、ある程度の目安は知っておきたいはずです。
ちなみに日本の場合は650万円程度、企業規模によっては800万円程度になることもあります。もし、建築士として日本で1,000万円以上を狙う場合は、大手ゼネコンでキャリアアップが最短コースになるかもしれません。そこで、アメリカで建築士として働いた場合を例にして、海外の年収をご紹介します。
アメリカの建築家は高収入
アメリカの建築家の年収は、800~1,200万円が相場です。ただし、経験年数や地域によって大きく異なります。たとえば、建築家として5年経験している方は、800万円程度です。アメリカで5年の経験を持つ方とは、一般的な建築はひとりでできますが、複雑で高度な仕事は上司の力を借りる方です。前述のとおり、地域差があるため、すべての州にこの年収相場が当てはまるわけではありません。
アメリカのなかでも、比較的高収入になるのは、ハワイ、カルフォルニア、オレゴン、ワシントン、アラスカといった西海岸です。どちらかというと、ニューヨークなどを含む、東海岸が高収入に感じますが、実際には異なります。また、年収1,200万円クラスになると、携われる仕事が、さらに規模が大きく高度です。一般的に年収1,200万円もらえる方は、10年以上の経験を持つ建築家、大規模な建築物でも、設計および管理できます。
為替で給料は変わる
当ページでご紹介しているアメリカの年収は、日本円に換算しています。アメリカの建築家の年収は800~1,200万円といいましたが、為替により変動するので注意しましょう。たとえば、1ドルが100円のときと90円のときでは、最終的にもらえる金額に、大きな差が生じます。
依頼者でも年収は変わる
アメリカの建築家は、依頼者によっても年収が変わります。依頼者が多くのお金を払えば、金額や仕事内容に見合う建築家が必要ですし、最終的には所属している会社の利益も増えるでしょう。会社の利益が増えれば、もちろん従業員として働く、建築家の年収にも大きな影響を与えます。日本のゼネコンと同じように、会社の規模が大きければ、より高額な仕事を受け持つ機会が増えるのは間違いありません。
海外で就職する際には現地のエージェント登録が必要?
海外勤務をする際に、かならずしも現地のエージェントに登録する必要はありませんが、多くの場合、登録した方が有利です。
エージェントを利用すると、現地の求人情報やビザ取得の手続き、住居の手配など、さまざまなサポートを受けられるため、スムーズに勤務を開始できる可能性が高まります。また、エージェントが現地の労働市場に精通しているため、自分に合った仕事を見つけやすくなるでしょう。
一方で、直接企業と契約するケースや、すでに現地にコネクションがある場合は、エージェントを通さずに海外勤務を実現することもできます。ただし、ビザや現地での生活に関する知識が必要となるため、事前に準備しなくてはなりません。
海外勤務の方法や注意点
次に、海外で勤務する方法や注意点を見ていきましょう。
希望を上司に伝える
建設業業界で海外に出張する方は、今後もどんどん増えていく見込みです。とはいえ、実際には国内で働く方の方が大多数で、海外転勤となるのは一部の方のみでしょう。
そのため、海外勤務希望者の競争率は、非常に高いといえます。しかし従業員の多くは、日本で働きたいと思う人が大半で、会社側も希望者は少ないと捉えていると考えられます。そのため海外勤務を希望される方は、その旨を伝えておきましょう。
海外勤務がある建設会社に転職する
建設業界でも海外展開に積極的なところは、スーパーゼネコンや準大手ゼネコンなどの会社で、海外に拠点を置いていることもめずらしくありません。一方で地場ゼネコンや中小の建設会社だと、そこまで展開していないところも少なくないでしょう。
海外展開していない建設会社に勤めていても、どんなに希望を上司に伝えたところで、海外勤務は叶いません。そのため海外勤務を目指すのであれば、グローバル展開している建設会社への転職を検討してみるといいでしょう。
現場監督としてのキャリアを積んでおく
建設会社によっては、若手社員に海外経験を積ませる方針のところも見られます。このような企業だと、現場監督としての経験が浅いうちに海外勤務を命じられるケースも少なくありません。このような場合は、海外で現場監督としての経験を積むことになるでしょう。
しかし、国内で現場監督の経験をしっかり積んだ方でないと、海外勤務が厳しいという実情もあります。そのため若手が海外勤務となるのは、業界全体として見ると、そう多いケースではありません。
このようなことから海外勤務を希望する場合は、まず日本で現場監督としての経験をしっかり積んでおくことをおすすめします。
語学学習をしておく
海外勤務になると決まってから、英会話などの語学学習をはじめる方は少なくありません。英語に関しては、中学・高校時代に勉強しているので、短期集中で学べば、必要最低限の英会話はできるようになります。
とはいえ、海外勤務をもとから希望されている方は、みずから望んでいる以上、転勤が確定する以前にふだんから語学学習をして、本番に備えておくべきでしょう。
現場監督は非常に多忙な仕事なので、学習時間を設けるのは難しいかもしれませんが、近年ではオンラインでも語学学習ができるようになっているので、スキマ時間に勉強することも可能です。
また、英語などの外国語の資格を取得をしておくと、グローバル展開している建設会社への転職に有利です。
まとめ
アメリカなどの海外で建築設計をするためには、一級建築士をはじめとした資格や、技術および知識が必要です。もちろん、必須ではありませんが、稼ぎたい、海外進出したいと考えている方は、完全に無視することはできないでしょう。また、日本と海外では建築関連の制度が違います。受験する際の条件も違いますし、資格所得後の年収も、日本と同じではありません。まずは、各国の建築事情をしっかりリサーチし、建築に関するさまざまな資格取得や、技術および知識の習得を目指しましょう。