建設業におけるDX人材とは?どのようなスキルが求められる?

建設業界では、様々な課題を解決するべくDX化が進められています。しかし、ノウハウの不足などの理由からDX化を思うように進められていない企業が多いのが実情です。そんな中重宝されるのが、DXに関する技術・知識を持った「DX人材」です。本記事では、そんなDX人材になるために必要なスキルなどを紹介します。
建設業がDX化を求められている理由
建設業界では、労働力不足や生産性の課題、そして根強い対面文化などの理由から、DXの必要性が高まっています。
建設業従事者の減少
1997年には685万人いた建設業従事者は、2023年には483万人まで減少し、特に技能工の高齢化が顕著です。55歳以上が約35%を占める一方、若手である29歳以下は約11%にとどまり、技術継承や将来の人材確保が大きな課題となっています。
労働時間の増加
また、建設業では2024年に時間外労働の上限規制が施行されましたが、依然として労働時間が増加している現状があります。人手不足や厳しい工期、天候による作業の中断などが原因で、働き方改革が思うように進んでいないこともDXが求められる背景のひとつです。
加えて、建設現場では対面でのやり取りが中心で、ベテラン技術者ほどデジタル技術に慎重な傾向が強く、デジタル化への移行に時間がかかっている点も指摘されています。
情報共有がスムーズになる
こうした課題を踏まえ、建設業DXにはさまざまなメリットが期待されています。まず、生産性向上の面では、現場とオフィス間の情報共有がスムーズになり、移動時間の削減や迅速な意思決定につながります。
リモートでの打ち合わせや書類確認が容易になり、全体の業務プロセスも効率化可能です。
働き方改革
働き方改革においても、タブレットによる写真管理やAIを活用した施工管理など、現場の負担軽減につながる技術が増えています。現場に赴かずに行える業務が広がることで、工数削減やパフォーマンス向上が実現し、働きやすい環境づくりにも寄与します。
技術継承の効率化
さらに、技術継承の効率化も大きなメリットです。熟練者のノウハウをデジタルで蓄積し共有することで、若手の育成が体系的に行えるようになります。また、安全性の向上にもDXは大きく貢献します。IoTセンサーやAIカメラによる危険検知、ドローンやロボットの活用による危険作業の代替など、事故防止に役立つ仕組みが整備できるためです。
建設業DXにおける課題
建設業でDXを進めるうえでは多くのメリットが期待される一方、現場ではさまざまな課題が存在します。代表的な課題として挙げられるのが、DX推進を担う人材不足、適切なツール選びの難しさ、そして業界特有の多重下請け構造による効果の限定化です。
人材の不足
まず、人材不足は大きな問題です。建設業界ではデジタル技術に精通した人材が非常に少なく、特にBIM/CIMやIoTなど専門知識を必要とする領域では人材確保が困難な状況です。
さらにIT担当者の高齢化も進んでおり、社内全体にデジタル技術を浸透させる体制づくりが遅れています。このため、教育体制の整備や直感的に使えるツールの導入が求められています。
ツール・システムの選定の難しさ
次に、ツールやシステムの選定が難しい点も課題となっています。建設業界向けのデジタルツールは多種多様で、初期費用や運用コストも無視できません。
中小企業では特に費用負担が重く、自社に合ったツール選びには時間と労力を要します。また、導入後に他システムとの連携がうまくいかず、期待した効果が得られないケースも見られます。
多重下請け構造
さらに、建設業に根付く多重下請け構造もDX推進の障壁です。元請企業がDXを導入しても、下請企業側が対応できなければ情報共有がスムーズに進まず、業務が二重化してしまうこともあります。
下請企業にもデジタルツールの導入支援が必要であり、業界全体での意識改革と連携強化が不可欠です。
DX人材の職種一覧
ここからは、建設業のDX化に不可欠な「DX人材」について解説します。DX人材とは、単にデジタル技術に精通した人だけを指すものではありません。
データ活用や技術を理解しつつ、事業部門の業務内容にも深く精通し、DXの取り組みを現場で牽引できる人材を広く意味しています。経済産業省のガイドラインでも、DX推進部門で技術とデータに精通した人材、また事業部門でDXを理解し取り組みを推進する人材の双方が必要とされており、片方だけではDXは前に進みません。
DX人材が担う役割は多岐にわたり、大きく7つの職種に分類されています。
ビジネスプロデューサー
「ビジネスプロデューサー」は企業全体のDX戦略を描き、ビジネスモデルの変革まで視野に入れて統括するリーダー的存在です。
ビジネスデザイナー
「ビジネスデザイナー」は、その戦略を具体的な企画として形にし、ステークホルダーとの調整やプロジェクト運営を支えます。
データサイエンティスト・AIエンジニア
「データサイエンティスト・AIエンジニア」は、AIやIoTなどの先端技術を扱い、データ分析を通じて事業に価値を生み出す役割を担います。技術だけでなく、ビジネスへの理解も不可欠です。
UXデザイナー
「UXデザイナー」はシステムやサービスのユーザー体験を設計し、利用者の満足度向上を目指します。
アーキテクト
「アーキテクト」はDXを実現するためのシステム全体を設計し、要件定義から開発支援までを担当します。経営視点と技術理解の両方が求められるポジションです。
エンジニア・プログラマ
「エンジニア・プログラマ」は、アーキテクトの設計にもとづき実際のシステムを構築し、ソフト・ハードの双方に対応できる幅広い技術力を持ちます。
最新技術エンジニア
最後に「先端技術エンジニア」は、AIやディープラーニング、ブロックチェーンなど最先端技術を扱い、新たな価値創出に直接関わる専門性の高い職種です。
DX人材に求められるスキル
DX人材には、単にデジタル技術に詳しいだけではなく、企業の変革を実現するための幅広いスキルと知識が求められています。DXは部分的なIT導入にとどまらず、ビジネスモデルや組織文化、業務プロセスの刷新を伴う大規模な取り組みとなるため、その推進には総合的な能力が必要です。
マネジメントスキル
まず重要なのが、プロジェクトマネジメントスキルです。DXでは関係者が多く関わり、アジャイル開発のように短いサイクルで改善を繰り返すことが一般的です。
そのため、戦略策定や課題分析、予算・スケジュール管理、コミュニケーションなど、従来のプロジェクト運営で培われる能力が大きく役立ちます。
企画力・構築力
次に、新規事業の企画力と構築力も欠かせません。DXの方向性に沿って具体的な企画を立案し、目的や課題を整理したうえで優先順位をつけて実行していく力が必要とされます。
また、企画した内容を実際のビジネススキームとして形にする構築力も求められ、現場との連携を通じて現実性の高い新事業を作り上げていきます。
ITの基礎知識
さらに、ITの基礎知識も必須です。担当者が直接技術を扱わない場合でも、エンジニアと共通言語で議論するための理解が求められます。
国内外の技術動向やトレンドを継続的に収集する姿勢も欠かせません。
データサイエンスの知識
データサイエンスの知識も大きな柱です。DXではデータ分析を基に意思決定を行うため、ビッグデータや機械学習による分析の価値が急速に高まっています。
データの収集方法や管理方法を検討するデータマネジメント能力も併せて重要視されています。
先端技術の理解
さらに、AIやブロックチェーンなどの先端技術を理解し活用する力も求められます。DXの取り組みは一度で終わらず、技術革新に合わせて継続的に事業を進化させることが必要です。
そのため、新しい技術を柔軟に取り入れ、ビジネスモデルやサービスへ反映させる発想力が不可欠です。
UI・UXに関する知識
最後に、UI・UXに関する知識も欠かせません。どれだけ高度な技術を備えたシステムでも、ユーザーにとって使いにくければ普及しません。
ユーザーの視点に立ち、操作性や体験価値を重視する姿勢は、デザイナーだけでなく、エンジニアやアーキテクトにも求められます。
まとめ
建設業界で求められるDX人材とは、単にデジタル技術に明るい人だけではなく、業務理解と技術をつなぎ企業変革を牽引できる存在です。深刻な人材不足や長時間労働といった業界課題を受け、DXはもはや「選択肢」ではなく「必須の取り組み」となりつつあるのです。DX人材には、プロジェクトを導くマネジメント力、新しい価値を創る企画力、エンジニアと協働するためのIT基礎、そしてデータ分析や先端技術の理解など、多角的なスキルが求められます。現場とデジタルの橋渡しができる人材こそ、これからの建設業において大きな価値を発揮する存在です。DX人材の育成や確保は、業界の未来を左右する重要な鍵となっています。







